私が小学生の頃、パーツを組み替えて遊ぶことができるバトル用のコマ、爆転シュートベイブレードがクラスで大流行。
ある日、私がベイブレードを欲しがっているのを見た父が買ってくれました。
類似品を。
このとき買ってもらった類似品には3種類ありましたが、全部あまりにも弱く、本家には手も足も出ませんでした。
その後、あまりに勝てないので二度とその類似品のシリーズを買い足すことはなく、本家のベイブレードをお小遣いでいくつか買いました。結局、類似品で友人のベイブレード相手に勝ったことは一度もありませんでした。本家を買ってからは普通に戦えるようになったので、私のシュート技術が絶望的というわけではありません。
なお、類似品と本家のベイブレードを戦わせることはおそらく本家サイドからは想定されていない遊び方だと思われますので、真似しないことを強くおすすめします。*1
当時の私には類似品が本家より弱い理由を検証するすべもなく、「そういうもの」として受け入れていました。
しかし、大人になった今、当時より知識も環境も充実しています。つまり、ある程度の検証は可能なのです。
この記事では、私が子どもの頃の苦い思い出となった類似品が本家を相手に勝てなかった理由を考察し、思い出にメスを入れていきます。そして、逆説的に本家ベイブレードの優秀さをプレゼンしていきたいと思います。
なお、筆者はベイブレード有識者ではありません。あくまで一般人が子どもの頃の思い出に大人の視点でメスを入れる記事です。
本家はなぜ強かったのか
ベイブレードのパーツなどの用語は世代によって異なりますが、この記事では私が持っていた類似品が発売された当時の「爆転シュート ベイブレード」の用語を元に説明します。
ベイブレードは本体の他に、ベイブレード本体を回転させて射出するためのシューター*2という部品があります。
類似品を観察してみると、シューターの爪の形状は類似しており、爆転シュートベイブレードとこの類似品はシューターを入れ替えることが可能なようです。
入れ替えてそれぞれの組み合わせを試してみたところ、どうやら
- ベイブレード本体
- シューター
の両方の性能が大差のようです。
どちらか片方が問題というわけではなかったのです。
ベイブレード本体
ベイブレード本体は全体で一部品のおもちゃではなく、いくつかのパーツに別れており、自由に組み合わせて遊ぶことができます。
パーツには大きくビットチップ、アタックリング、ウエイトディスク、ブレードベースの4つがあります。
ビットチップ:設定上聖獣が宿っているとされるパーツで、特別ルールが設定されていない場合には強さに影響しません。
アタックリング:相手のベイにぶつかる部分で、爪のような形状で相手を引っ掛けたり、傾斜で相手のバランスを崩したりといった攻撃方法に関わるパーツです。
ウエイトディスク:金属製の部品で、主に重量や重心に関わるパーツです。
ブレードベース:軸を含む最下部のパーツで、主にベイブレードの挙動に関わるパーツです。
部品ごとに比較してみましょう。
まずビットチップですが、こちらは強さには影響しません。本来透明なビットチップカバーが類似品では不透明なプラスチックなのでビットチップが見えないという実用上致命的な問題はありますが、この点も強さには影響しません。
次にアタックリングです。
見るからに形成が本家よりも雑だったり、手元のものは本家より耐久力がないのかバトルの過程でひん曲がってたりしていたり、材質も全部一緒だったりもしますが、ものによっては2枚の部品を組み合わせているなどまあまあ頑張っています。
これだと強めなカスタムには勝てないまでも、全敗の理由にはならなさそうです。
次にウエイトディスクです。
これもちゃんと金属なので最低限重量部品としては機能していそうです。ちなみに、実験のためにここに更に重りを追加して重くしてみたところ、類似品に付属していたシューターが耐えられずシュートができなくなりました。
となると問題になりそうなのはブレードベースです。
手元にある類似品は3種類ですが、よく見るとブレードベースが2種類しかありません。
しかもこれらについて軸先には特に差がなく、ブレードベースの高さが違うだけのようです。*3
本家ベイブレードでは、アタックタイプでは地面をけるような高摩擦軸、持久タイプでは低摩擦な軸や、中にはベアリングを採用した軸など軸先に様々な工夫が施されています。
一方、類似品では単にブレードベースと一体形成のプラスチックでした。
強いて分類するならバランス型寄りの持久型にあたりそうな軸先ですが*4、実際には大して持久力はない上、アタックリングは攻撃型2種と防御型にみえます。
また、ベイの挙動を決定づける軸先が1種類しかないのは、どれか一つの手しか出せないじゃんけんのようなもの。
おそらくこれは大きな敗因のひとつでしょう。
シューター
シューターはベイブレードの大きな発明のひとつと言えるでしょう。
というのも、単に回転させるだけであれば特に技術は必要ないのです。
もちろんシュート技術によって回転数や挙動に差は出ますが、簡単にベイを高速回転させることができることで、間口が広くなっているのです。
このシューターや、引っ張る紐部分であるワインダーにも種類があり、それぞれに性能差があります。
当時からシューターに性能差があることは薄々気がついていました。
というのも、このシューターの射出速度は見るからに遅いのです。
今の私にはハイスピードカメラ*5と動画編集ソフトがあります。
大人の財力と令和の文明の利器*6をもってすれば、回転数をおおまかに計測することが可能なのです。
では、類似品と本家のシューターを比較してみます。
本家のシューターは最もベーシックな付属品のシューター、通常のワインダーを使用します。
類似品のベイブレードを類似品のシューターと本家のシューターで3回ずつ射出し、最も回転数が速かった際の着地時の回転数を計測しました。
類似品のシューター:約21回転/秒
本家の付属品シューター:約105回転/秒
なんということでしょう。およそ5倍の回転数の差があります。もちろん経年劣化で性能が悪くなっているとは思われるため、類似品のほうが経年劣化に弱いとすればフェアな比較にはならないかもしれませんが、それにしてもこの差は大きいです。終盤の消耗状態からスタートしているようなレベルです。そりゃ勝てません。
回転数の差の原因について、最大の原因はそもそもシューターの機構が異なることでしょう。正規品のシューターはワインダーを引く力を回転力に変換しているのですが、類似品はゼンマイのような機構のようです。
また、シューターからベイが外れるときに失われるエネルギーが大きいことなども原因ではないかと思います。類似品のシューターでは、場合によっては速度が完全に失われてからシューターからベイが外れ、一回転もせずに決着がつくことすらあります。類似品のシューターも2つ持っており、両方がこんな感じだったため、おそらく不良品ではなくこういうものなのだと思われます。
このように、ベイ本体とシューター両面において、類似品は本家の性能には敵わなかったのです。
強さ以外の本家の利点
最近では私が子どもの頃のものよりも性能の高い類似品も出回っているようです。
しかし、中には極めて薄い形状の金属部品が使われているものなどもあるようです。これが高速回転しては、怪我をしてしまうかもしれません。
一方、本家ベイブレードは鋭利な金属部品が使われていないのはもちろんのこと、現行製品ではスタジアムに透明カバーがついたことで、スタジアムから弾き飛ばされたベイにぶつかってしまうという事故を防ぐこともできます。
この透明カバーは私が子どもの頃にはなかったものです。時代とともにベイブレードが楽しさの面だけではなく、安全面でも進化を続けていることを実感しました。
まとめ
おもちゃは子ども同士が遊んだりしてコミュニケーションをとったりするきっかけになります。子どもたちは遊びを通して様々なことを学びます。流行りのおもちゃはある種の共通言語ともいえるのです。
もちろん、他人が持っていないおもちゃからも得られる体験はあります。そうした他の人が持っていないものの魅力を一人で突き詰めてみたり、その魅力を発信してみんなと共有してみたりするのもまた一興でしょう。しかし、それが単に流行り物を真似ただけの類似品であれば、大抵の場合本物で得られる体験を超えることはありません。
特にベイブレードは、より強いカスタム、相性、シュートの方法などを考える余地があり、共通のルールの元で試行錯誤するという体験を得ることができます。
これは、カスタマイズの余地が少ない類似品では味わうことが難しいものです。
世の親御さん方も、当然子どもが欲しがるものをなんでも買ってあげるわけにはいかないかとは思います。しかし、だからこそお子さんのためにベイブレードを買う機会があれば、できることなら本物を買ってあげてください。