前書き
最強羽生将棋のSUPRE人生プレイという縛りプレイが存在する。
これは何年も昔にマリオ64のSUPER人生プレイという縛りをベースにしてあるプレイヤーによって考案されたものであり、駒をとられずにゲーム中の門下生大会モードをどこまで進めることができるかという挑戦である。考案者自身も実際この縛りでクリアできるとは思っていなかったようで、彼自身一人たりとも勝利することができていなかった。
この記事は、その馬鹿げた挑戦が実現化のうなのかどうかを真面目に検討するものである。
将棋の人生プレイは何が難しいのか
将棋において駒をとられないというのはどれほど難しいことなのだろう。
まず、将棋やチェスのような駒の取り合いを前提としたゲームシステムで駒を一切とられないようにするなどということは、相手より圧倒的に強くないとできないということはご想像のとおりである。
さらにいえば、将棋は駒の再利用が可能な特性上、チェスなどの同種のゲームよりも駒の取り合いが激しい。「開戦は歩の突き捨てから」という格言があるほどに、将棋とは序盤から終盤まで駒を捨ててより大きな利益を得ることが基本戦略である。
こうした特性上、トップクラスのプロ棋士が基本ルールしかわからない素人を相手にするといった条件であっても、この縛りで勝つことは不可能である。
では、最強羽生将棋においてもこの縛りは絶望的なのだろうか。
唯一の希望は、「コンピュータはプレイヤーがこのような縛りの元でプレイしていることを知ることができない」ということである。
「相手は駒をとられてはいけない」という条件が分かっていれば、価値の高い駒と低い駒であろうと刺し違えてしまえば終わりである。しかし、「相手が普通に指している」と思い込んでいる限りは、このような損な取引を持ちかけてくることはまずないであろう。
これを利用できるならば──。
門下生1人目、関根剛三
手合割:二枚落ち
上手:関根剛三
△6二銀 ▲7六歩 △5四歩 ▲7五歩 △3二金 ▲7八飛
△5二金 ▲7六飛 △4二銀 ▲6六角 △4一玉 ▲8六飛
△8四歩 ▲同 飛 △3一玉 ▲8一飛成 △2二玉 ▲9一龍
△5一銀右 ▲9三龍 △6二銀 ▲9一龍 △5一銀右 ▲8二龍
△6四歩 ▲7三龍 △5三金 ▲7四歩 △6五歩 ▲9三角成
△5二銀 ▲7一龍 △3四歩 ▲7三歩成 △6六歩 ▲同 馬
△4四歩 ▲7四歩 △4三金寄 ▲6二と △5三銀直 ▲6三と
△1四歩 ▲7三歩成 △1五歩 ▲1八香打 △2四歩 ▲7四歩
△3三銀 ▲5二と △6四銀 ▲6三と △5五銀 ▲6五馬
△2五歩 ▲7三歩成 △5六銀 ▲同 馬 △5五歩 ▲同 馬
△5四金 ▲同 馬 △4三金 ▲同 馬 △2三玉 ▲2一龍
まで66手で下手の勝ち
解説
1人目の門下生である関根剛三とは二枚落ち下手での対局となる。
図1:△6二銀 ▲7六歩 △5四歩 ▲7五歩 △3二金 ▲7八飛
駒を取られてはいけないということは、歩の交換すら許されないということである。なので、できる限り歩を敵陣に近づけたくはない。そこで、一つの筋の歩のみを動かして角と飛車の活用を図ることができる三間飛車の出番である。
図2:△5二金 ▲7六飛 △4二銀 ▲6六角 △4一玉 ▲8六飛
最強羽生将棋のコンピュータには駒落ち専用のロジックが入っていない。そのため、平手と同じような駒組を行ってしまう。しかも、関根は最初の門下生、つまり最弱に設定されている。
そのため、単純に飛車を横に展開するこのような単純な攻めにすら対応することが出来ない。
あとは飛車を成り込み、細心の注意を払いながら駒を回収していく。
図3:△8四歩 ▲同 飛 △3一玉 ▲8一飛成 △2二玉 ▲9一龍
△5一銀右 ▲9三龍 △6二銀 ▲9一龍 △5一銀右 ▲8二龍
△6四歩 ▲7三龍 △5三金 ▲7四歩 △6五歩 ▲9三角成
△5二銀 ▲7一龍 △3四歩 ▲7三歩成 △6六歩 ▲同 馬
△4四歩 ▲7四歩 △4三金寄 ▲6二と △5三銀直 ▲6三と
△1四歩 ▲7三歩成 △1五歩 ▲1八香打
最大限警戒すべきはこの端歩である。不利なときに香車という強力な駒がいる端に活路を見出すのは人間もコンピュータも同じである。普通ならたいしたことのないこんな端攻めすらも、このルールでは強引に歩をもぎ取りにこられる非常に厄介な攻めである。
そこで、端を攻めてもいいことはないぞ、と関根に言い聞かせるように強引に香車を打ち付けて戦意を喪失させる。
あとはひたすらと金を作り続けて包囲し、相手に無意味な捨て駒を誘発させる。
ここで注意したいのは、絶対に相手から駒を捨てるように仕向けることである。大量のと金で相手の駒をはがすのは普通の将棋なら勝ちパターンだが、今回はと金の一枚ですら相手に与えるわけにはいかない。
端を補強したとはいえここまで破れかぶれになった相手がいつ端を絡めてくるともわからないので、正直に言えばこの時点でも一切油断はできなかった。
図4:△2四歩 ▲7四歩
△3三銀 ▲5二と △6四銀 ▲6三と △5五銀 ▲6五馬
△2五歩 ▲7三歩成 △5六銀 ▲同 馬 △5五歩 ▲同 馬
△5四金 ▲同 馬 △4三金 ▲同 馬 △2三玉 ▲2一龍
まで66手で下手の勝ち
今回はなんとか勝利を収めることができた。
次の相手とは角落ちでの対局となるが、大駒はこのルールではあまりにも大きい。このゲームの最弱設定のコンピュータはたまに雑に大駒を捨てることで弱さを実現するような調整になっている。
また、飛車落ちでは今回ついた8筋の隙が存在しない。非常に厳しい戦いになるであろう。
次回、野元広治編。
なお、次回がなければ私では勝てなかったということである。