【将棋】藤井システムはコンピュータ将棋の歴史的な出来事にも影響を与えていたらしい

先日行われた叡王戦予選で藤井九段が羽生九段を下した名局が話題となり、将棋ファンの間で藤井システムが再び脚光を浴びています。

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プロ間での評価も極めて高く、一部では「将棋の歴史を変えた」とまで評されるこの戦法ですが、実はコンピュータ将棋の歴史に残るある出来事にも影響を与えていたそうです。

 

その出来事とは、現在まで一人しかいない、CSA永世選手権者の誕生です。

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金沢将棋の開発者である金沢伸一郎氏は、コンピュータ将棋選手権(現:世界コンピュータ将棋選手権)に史上最多5回優勝したことで、コンピュータ将棋協会賞として「CSA永世選手権者」となったそうです。

世界コンピュータ将棋選手権での優勝回数は、有名な激指やIS将棋(東大将棋)で4回、YSS(AI将棋)で3回、Bonanzaやponanzaで2回ということを考えると、5回というのは途方もない数字なのではないでしょうか。

(もちろん、金沢将棋が活躍していた頃は大会参加者が今ほど多くなかったこと、強豪ソフトのオープンソース化が進んでいなかったなど、環境の違いがあるため単純比較はできません。)

では、この5回優勝の経緯を見ていきましょう。

永世選手権者までの軌跡

金沢氏がコンピュータ将棋選手権に初めて出場したのは第2回で、このときは準優勝でした。

その後、なんと金沢氏は第3回から第6回まで怒涛の4連覇を果たしました。

この時期の金沢氏はその若さとコンピュータ将棋にかける情熱から「コンピュータ将棋界の羽生善治」と呼ばれたそうです。

しかし、第7回ではライバルのYSSに、第8回では新鋭のIS将棋に優勝を阻まれてしまいます。

新戦法でついに5度目の優勝へ

金沢将棋は第9回コンピュータ将棋選手権でとうとう優勝を果たしました。

この時の金沢将棋は、昨年まで採用していなかった新戦法を多用します。

そう、それこそが藤井システムです。

それまでの金沢将棋は四間飛車の採用率はあまり高くなかったのですが、この年は決勝7局中4局が四間飛車、うち3局が居玉のままで駒組みをしていました。

 

現在のコンピュータ将棋は自己対局の結果から学習、少し前は人間の棋譜から学習していましたが、更に昔のこの時期は評価関数や定跡を開発者の方が手調整していました。

近年でも開発者の方が戦略的に定跡やエンジン設定、評価関数を切り替えることはあるようですが、当時は更に開発者の方の意図が指し手に反映していたと考えられます。

つまり、金沢将棋がここまで藤井システムを多用したのは、おそらく開発者の金沢氏の戦略だったのではないでしょうか。

 

藤井システムが功を奏したのか、金沢氏は前人未到の5度目の優勝を果たしました。

先述の通り、この記録は今も破られていません。

 

この時のYSSの開発者である山下氏のコメントが残っています。

http://www.yss-aya.com/bbs_log/bbs1999.html#bbs69

 

コンピュータ将棋選手権の棋譜は全てコンピュータ将棋協会のホームページで公開されていますので、5回目の優勝時の棋譜や、空前の4連覇時の棋譜なども鑑賞してみると面白いと思います。

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まとめ 

藤井システムはプロ、アマ棋界のみならず、コンピュータ将棋界にまで影響を与えているらしいことがおわかりいただけたと思います。

それだけ素晴らしい戦法だったということですね。

 

また、この例のようにコンピュータ将棋選手権は、コンピュータを通して開発者の技量や作戦がぶつかり合う場でもあります。

近年のコンピュータ将棋界では振飛車が不遇なようですが、振り飛車を指す強い将棋ソフトの開発に取り組んでおられる方もいらっしゃいます。

プロ棋戦だけでなくコンピュータ将棋選手権を鑑賞してみるのもいいかもしれませんね!

 

 

おまけ

金沢将棋のその後

選手権では2000年以降の成績は下がり気味ですが、金沢氏が追い求めたのは、

道場などで対人の実戦を積み、その棋力を高めていきます。

2003年にはネット将棋対局場である将棋倶楽部24コンピュータとしての最高レート(2250)を叩き出しています。

 

また、現在では棋力のトップ争いからは退いていますが、「金沢将棋 レベル300」などのバラエティ豊かな将棋ソフトの思考ルーチンを開発し、定番の将棋アプリとして人気を博しています。

さらに、当時の思考ルーチンとの関係は不明ですが、「もっと上をめざす人のための将棋」や「金沢将棋3D 〜厳選20戦法〜」などの商品にも藤井システムを指す思考ルーチンが含まれています。

買ってみて当時に思いを馳せてみるのもいいかもしれません。

www.unbalance.co.jp

技術的側面に興味がある方へ

当時のコンピュータ将棋の仕組みについて知りたい方は、「コンピュータ将棋の進歩」シリーズを読んでみると面白いと思います。

古い本は入手困難ですが、この本は案外図書館に置いてあったりするので、まずは最寄りの図書館でさがしてみてはいかがでしょうか。

ちなみに金沢将棋についての記事が載っているのは「コンピュータ将棋の進歩3」です。

「探索の開始局面で駒の位置評価のテーブルを作成する」 など、現在ではみられない興味深いアルゴリズムが多数掲載されています。

https://www.amazon.co.jp/dp/4320029569/

 

当時のコンピュータと対局してみたい方へ

怒涛の4連覇時の金沢将棋の思考ルーチンをほぼそのまま採用した「最強羽生将棋」というゲームソフトがあります。

こちら、当時の最先端のゲーム機のNintendo 64と同時発売でして、当時最先端のハードウェアとソフトウェアの組み合わせがどのようなものだったかを知るための歴史的資料として価値のあるものと思います。

「コンピュータ将棋の進歩3」の記述によれば、「大会用のエンジンをほぼそのまま移植した」とのことですので、まさに当時の強さを体感できるのではないでしょうか。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0000645MS

 

今のコンピュータと当時のコンピュータの棋力差

当時のソフトと今のソフトの棋力差ですが、1998年の金沢将棋と2017年のelmoを対局させると、金沢将棋側の勝率は0.02%〜0.05%くらいになるようです。(elmoは長時間の対局に強いため、より長時間の対局だと更に差が開くかも知れません。)

  

参考文献

世界コンピュータ将棋選手権

株式会社キワメホームページ(現在は閉鎖済み)

YSSと彩のページ

コンピュータ将棋 Qhapaq

SETA - 金沢将棋'95 パッケージ/説明書(1995)

松原 仁 - コンピュータ将棋の進歩〈3〉(2000)

 

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