いよいよSwitch Onlineの新プランでNINTENDO64タイトルが配信されます!
当然64のRTA走者もこれには大注目です。
見ていただければわかるとおり、配信タイトルに最強羽生将棋はありません。
しかし、「最強羽生将棋がSwitch Onlineで配信されたとき、RTAではどちらが有利なのか」という質問を頂きました。
私は任天堂の内部事情は一切知りませんし、棋戦の主催者提供の公式戦棋譜を612局を収録している都合上配信は難しそうな気はするのですが、このような質問がくるということは多分水面下で準備が進められているのでしょう。
ちょうどつい最近参戦不可能といわれていたソラがスマブラに参戦したことですしね。
ということで、最強羽生将棋とSwitch OnlineやVirtual Consoleの仕様から、配信された場合にどちらが有利なのかを推測して紐解いていきましょう。
なお、この推測が間違っていた場合に私は一切の責任を負いません。また、万が一Switch Onlineのサービス終了までに最強羽生将棋が配信されなかった場合、苦情は質問者にお願いします。
実機とSwitch Onlineの差はなにか?
「実機とSwitch Onlineって、同じゲームなんだから同じ動きをするんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
Switch OnlineのレトロゲームやWiiやWii Uのバーチャルコンソールのような最新ハードでレトロゲームを動かすサービスは、一般にエミュレータによって実現されています。
ここでいうエミュレータとは、他のハードの動作を模倣するソフトウェアで、要は最新ハードの上で動くソフトウェアによって仮想的に古いハードの動きを再現しているのです。
しかし、エミュレータがどこまで正確にもとのハードの動きを再現できるかは、エミュレータの完成度に依存します。
エミュレータの再現度を極限にまで高めるには、当然開発者がもとのハードの動きを知り尽くしている必要があります。エミュレータ開発には極めて高度な専門知識と、もとのハードを研究する労力が必要になるのです。
また、開発者のスキルや工数だけでなく、ハードウェア面での成約もあります。
一般にエミュレータは再現度を高めれば高めるほど、実行に必要なマシンパワーが高くなる傾向にあります。
こういった事情から、Switch Onlineなどで配信されているレトロゲームには実機と違う挙動があることがあります。
VCにおける64エミュレータの傾向
Switch Onlineよりも前に任天堂が64エミュレータを使用したサービスとして、Virtual Consoleがあります。スーパーマリオ3Dコレクションに採用されたエミュレータもWii U版Virtual Consoleがベースであったといわれおり、実際挙動はかなり近いです。おそらくSwitch Onlineでもこれをベースにして開発が行われると考えられるため、これはSwitch Onlineのエミュレータの傾向を予想する上で参考になります。
Virtual Console版のエミュレータの実機との差異はいくらかあります。
主に見てわかる差としては以下のとおりです。
- 解像度が高い
- 処理落ちが少ない
- 実機でクラッシュが発生するバグの一部でクラッシュが発生しない(時のオカリナの大人デクの棒、ムジュラの仮面のデバッグメニュー、マリオ64のPU等)
なお、一時期話題となった浮動小数点の丸め方向が実機と違うという挙動はWii版のみで、Wii Uでは発生しません。
最強羽生将棋RTAへの影響範囲の考察
では、最強羽生将棋RTAにはどのような影響があるのでしょうか?
解像度はRTAに関係ないので、残りの2点が焦点となります。
先にバグによるクラッシュのほうを見てみましょう。
最強羽生将棋ではかつてRTAに使われていた三枚目の玉というバグがあります。これは、盤外からどこからともなく玉が飛んでくるバグです。
このバグをRTAで使うには、クラッシュ対策として設定から駒を選択する必要があります。
一方、このバグでのクラッシュはエミュレータ*1では発生しづらいことが知られています。
細かい説明は省きますが、原理上おそらくSwitch Onlineでも発生しづらいと考えられます。
このことから、このバグを実用するチャートでは設定変更にかかる時間を短縮できると考えられます。
とはいえ、これは1秒程度の短縮。このバグを使わない現行チャートとタイムが逆転するほどのインパクトはありません。
問題は処理落ちの方です。
まず、シンプルに最強羽生将棋のタイトル画面や門下生選択画面の処理落ちは大きいため、ここで10秒〜20秒程度は縮むと考えられます。
大きな問題は、門下生の思考時間と指し手です。
実は、最強羽生将棋の指し手を正確に再現できるエミュレータは現時点で存在しないのです。
最強羽生将棋は、金沢伸一郎氏が開発した当時最先端の思考エンジン「金沢将棋」を採用しており、SETAのスタッフもこのパワーを最大限活かすようにゲームづくりを行っています。
一般にテレビゲームでは1フレームを時間の単位として同期を取ることで処理を調整します。しかし、最強羽生将棋では思考エンジンをフルパワーで回しているため、1フレームでどこまで処理が進むかは本体の速度に依存します。
そのため、最強羽生将棋は実機以外の環境では、指し手が違ったり思考時間が違ったりするのです。エミュレータを使ってさも実機かのように実況プレイしてもばれます。やめてね。
ほんの僅かな実行速度の差が指し手の差につながるため、現時点までに最強羽生将棋の指し手を完全に再現できるエミュレータは登場していないのです。なんならBGMのオンオフで指し手が変わることも知られています。
ここまでくると下手したらロットによる速度差で指し手がブレることも考えられますが、現時点では確認されていません。64の速度がほとんど一定でよかった。
多くのゲームではVCでは処理落ちが大幅に減っているため、VCの処理は64実機よりかなり早いと考えられます。
一般に将棋ソフトは高速であればあるほど強いため、最強羽生将棋はSwitchでは強くなることが予想されます。
では、最強羽生将棋RTAは64実機のほうが有利なのでしょうか?
私はそうは思いません。というのも、最強羽生将棋に登場する門下生によって、速度で指し手がぶれたりぶれなかったりするからです。
この理由を説明していきましょう。
将棋ソフトの時間制御について、大雑把に次のようなパターンが考えられます。
- 読んだ量が基準に達したら探索を打ち切る
- 読んだ時間が基準に達したら探索を打ち切る
最強羽生将棋ではこの両方を時間制御に取り入れています。
しかし、RTAでは相手の思考時間が短くなるように工夫をしていることもあり、読んだ時間が基準に達しての探索打ち切りはそこまで多くはありません。
また、基準が時間ではなく探索量であれば、どれだけハードが高速化しても影響は出ません。*2
そのため、現行のチャートではどれだけハードが速くなっても強くなる門下生はせいぜい16人中3人です。
また、この3人についてもハードがどんどん速くなったとしても、ある段階で探索時間を基準に達する前に探索量が基準に達するようになります。
これらの門下生がこういった理由で棋力のピークにまで達したとしても、チャートを構築しなおせばせいぜい6手伸びる程度に抑えることができる自信があります。
一方で、マリオ64の処理落ちの減少から察するにVCの64エミュレータは動作速度が実機よりかなり速いことが予想できます。
感覚的にはおそらく思考時間と処理落ちの削減だけで2〜3分は縮むため、3人の門下生×6手=18手伸びたとしてもどうとでもなるのです。
まとめ
最強羽生将棋RTAではほぼ確実にSwitch Onlineのほうが有利なことがわかりました。
配信が始まればルール整備などのために忙しくなることでしょう。
そんなわけでみなさんも、Switch Onlineの追加プランに加入して64を遊んだり、最強羽生将棋の思考エンジンの後継が搭載されている金沢将棋 〜レベル300〜を遊んだり、当時の羽生七冠以来の将棋ブームを巻き起こしている藤井三冠のゲームを遊んだりしてみてください。
全部Switchで遊べますよ!
一方、万が一配信が始まらなかったらこの質問を投げてきた人に文句を言いにいかないといけないので、どっちにしろ忙しくなると思います。
それでは。